人気ブログランキング | 話題のタグを見る

墓参り

 お墓にひなんします

被爆から66年目の広島・長崎
アメリカの原爆投下で廃墟と化した街
70年は草木も生えぬといわれたが
草木の芽吹きに
失われたいのちの悲しみ
いのちの尊さを噛みしめていた
3月11日 東日本大震災
大地震と大津波と原発事故に見舞われた光景に
「あのときと同じだ」被爆者は声をあげた
    *
福島第一原発の崩壊 メルトダウン
爆発した原子炉建屋
放射能の恐怖に避難を余儀なくされ
あいまいな政府の避難区域設定に翻弄された人びと
そのなかにひとりの老女がいた

南相馬市の緊急時避難準備区域に住む93歳
静かな水田地帯で先祖伝来の田畑を守り
長男夫婦と孫2人の5人で暮らしていた
足は弱っていたが家事はこなし日記もつけていた
第一原発の二度の爆発のあと
一家も原発から22㌔の自宅を離れ
相馬市の次女の嫁ぎ先に身を寄せた
さらに女性だけ次女のもとに残し
長男夫婦と孫は群馬の民宿へ避難した

4月後半 女性は体調を崩し入院
退院後も「家に帰りたい」とくりかえし
5月3日自宅へ戻った
長男にたびたび電話しては
「早く帰ってこお」と寂しさを訴えていた

長男たちが自宅へ戻ったのは6月6日
緊急時避難準備区域は原発事故が再び深刻化すれば
すぐ逃げなければならない
長男夫婦が「今度は一緒に行こう」というと
女性は言葉少なだった
    *
家族そろった生活にもどり2週間後
女性は庭で首をつっていた
発見したときは手遅れだった
家族 先祖 近所の親しい人に宛てた
4通の遺書が残されていた
 
 家族へあてた遺書(部分)

またひなんするようになったら
老人は足でまといになるから

毎日原発のことばかりで
いきたここちしません

こうするよりしかたありません
さようなら

私はお墓にひなんします
ごめんなさい
    *
8月6日 記念式典の始まった広島平和公園
原爆資料館の横をぬけて
峠三吉の詩碑へむかう
花束や折鶴で囲まれた碑を前にして
小さく声を出しながら
碑文を見つめていた
                         
                             「毎日」7月9日付参照


 *「風」7号で発表した作品です。この事実を詩の形で表すことに、昨年の世界大会の前後をふくめ悩み続けました。
 9月のお彼岸に福島の墓参りをしました。震災後というか第一原発の爆発後初めての墓参り、セシウムがたまっていそうな草を引っこ抜くと、アマガエルが迷惑そうに顔を出しました。
 避難してだれも住んでいない家です。
墓参り_a0002947_11563760.jpg
墓参り_a0002947_1157569.jpg

by HirohisaT | 2012-01-18 12:04  

<< 朝食 鯨刺 >>